英国出身のオルガニスト、ディビッド・ハーストは、演奏家としての国際的な活動に加え、楽器そのものへの深い理解と洞察を併せ持つ、現代オルガン界における稀有な存在である。現在はパリ近郊を拠点に、12世紀建立のノートルダム・コレジアル教会(マント・ラ・ジョリ市)の主任オルガニストを務め、同教会に設置された3台のオルガンの芸術的・音楽的責任を担っている。また、同市で開催される国際オルガンフェスティバルの音楽監督として、その企画と芸術的方向性を主導している。

これまでに、ウェストミンスター寺院、セント・ポール大聖堂(ロンドン)、ヴェルサイユ大聖堂、シャルトル大聖堂、アントワープ大聖堂、サン=トゥアン修道院(ルーアン)、マインツ大聖堂など、ヨーロッパを代表する歴史的会場で演奏を行ってきた。米国では、ニューヨークのセント・パトリック大聖堂をはじめ、世界最大のオルガンを擁するアトランティック・シティのボードウォーク・ホールなど、大規模空間での公演も重ねており、宗教的空間から純粋なコンサートホールに至るまで、幅広い音響環境において高い評価を得ている。今後ノートルダム大聖堂(パリ)をはじめ、欧米の主要都市での演奏活動が続いている。

英国ケンブリッジ大学で音楽を学び、ロンドン王立音楽院で研鑽を積んだ後、ロンドンの王室教区セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ教会のオルガニストを長年務めた。同教会では、王室および国際的な公式行事での演奏に加え、BBCによる生放送を含む放送演奏を数多く担当した。オルガン奏法は、リオネル・ロッグ氏、トーマス・トロッター氏、ニコラス・キナストン氏といった、国際的に高く評価されるオルガニストに師事した。

録音活動においては、マント・ラ・ジョリ市に現存し歴史的建造物として指定される、1897年製ジョゼフ・メルクラン社製グランド・オルガンによる世界初録音を含むCDを発表。2022年にPriory社よりリリースされた同録音は、音楽専門誌において高い評価を受けた。

さらにハーストは、英国最大かつ最も権威あるオルガン製作会社ハリソン・アンド・ハリソン社において、副社長および社長を歴任。演奏家としての視点を基盤に、オルガンの修復・新設、音色設計(ボイシング)、芸術的評価に関わり、ウェストミンスター寺院、キングズ・カレッジ(ケンブリッジ)、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールなど、英国を代表する楽器と深く関わってきた。この経験は、楽器と空間、音楽表現の関係を総合的に捉える彼の演奏解釈にも色濃く反映されている。

また、6年間にわたり日本に居住・就労し、日本政府認定日本語能力試験1級を取得するなど、日本との関係も極めて深い。国際的な視野と現場に根差した実践的経験を併せ持つ音楽家として、今日のオルガン文化を多角的に体現している。


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